Skip to content

バッテリーアナライザSI-9300Rで、 EV自動車使用済み電池の再生サイクル時間を1/100に短縮

月曜日, 2月 17, 2020

アメテック社ターンキーソリューション バッテリーアナライザ SI-9300R 日産など、使用済み電池モジュールの高速グレーディング要件特定に採用


開発経緯
どんな電池にも寿命がありますが、電気自動車(EV)の電池では少し事情が異なります。EVの電池は、EVの用途としての寿命があるのです。EVの電池は、EVの用途としての寿命に達すると、製造業者によってリサイクルされるか、廃棄されるまで長期保管されます。

日産は、EVの用途で寿命に達したけれども他の用途では十分に使用できる電池を選別するグレーディング手法の開発に乗り出しました。問題解決に向けて、日産では実質的なイニシアティブに基づき、プロジェクトが計画されました。英国ウォーリック大学の研究機関であるWarwick Manufacturing Group (WMG)では自動車メーカーが直面する課題の解決を目的とした研究コンソーシアムがあり、日産は使用済み電池のグレーディング手法を確立すべくWMGの研究に参画しました。

 

 

社会問題化する電気自動車の使用済み電池

 2018年の時点で、ヨーロッパでは100万台以上のプラグイン型のEVが登録されており、アジア(大部分は中国)においても同数のEVユニットがすでに登録されています。 現在、使用済み電池を材料にまで分解してリサイクルすることは採算上の課題があるだけでなく、一部の企業しかリサイクルのノウハウを持っていません。欧州連合(EU)は電池に関連した様々な問題を認識しており、自動車メーカーに対してEVの電池のリサイクルを定めた新しい法律が施行されると予想されています。      

しかし、電池をリサイクルする場合には、これらの材料の再利用先を見つける必要があります。一方で、多くのEVの使用済みのEVのリチウムイオン電池は、家庭用や産業用など他の用途には十分な寿命が残っていて、リユースすることが可能です。 Nissan Energy社のマネージングディレクターであるFrancisco Carranza氏は次のようにコメントしています。

「使用済みEV用リチウムイオン電池の数は、現在の年間数千個から2025年までにから数万個に増加すると見込まれています。これらの使用済み電池には、通常、かなりの容量と電力供給能力が残っています。いわゆる電池のリユース(注:原文では’second-life’アプリケーション )が提案されていて、電池のバリューチェーンを拡張し、リサイクルを遅らせてして廃棄物を最小限に抑える手段になりえます。」

電池のリユースを実現するには、使用済み電池をグレーディングする必要があります。つまり、使用済み電池が、スペアパーツとして使用、別用途でのリユース、もしくは材料のリサイクルのいずれに適しているかを特定しなければなりません。しかし、従来のグレーディング方法では、多くの時間と費用がかかっていました。

そこで、日産は、EVの使用済み電池(電池パック・電池モジュール)を廃棄やリサイクルせずにリユースできるように、日産リーフの使用済み電池を高速にグレーディングする手法に着手しました。



挑戦

日産 (英国、サンダーランド)の研究チームは、2019年末までに使用済み電池により1MWhのエネルギー貯蔵を実証する目標を立てました。

  英国 ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が一部の資金を提供し、UK Energy Storage Laboratoryプロジェクトが発足しました。このプロジェクトは、日産、英国ウォーリック大学の研究・教育機関 Warwick Manufacturing Group(WMG)、AMETEK、およびElement Energyが主導し、グレーディング手法を開発するために50個の日産リーフの電池が使用されました。

WMGのエネルギーイノベーションセンターの研究チームは、使用済みのEV用リチウムイオン電池を電池パックの状態で評価する、安全、ロバストかつ高速な手法を開発しました。 最初にWMGで開発されたこの手法は、電池リユース用のパイロットラインに移管され、使用済み電池をリユースして1MWhのエネルギー貯蔵の目標が達成されました。
     

電池パックのグレーティング手法の検討に続いて、WMGの研究チームは、従来3時間かかっていた電池モジュールのグレーディングを、わずか3分間で行うグレーディング手法を開発しました。

この高速グレーディング手法により電池モジュールのリユースが可能になったことで、EV以外のモビリティ用途から太陽光パネルの蓄電池など設置用途に至るまで、便利で信頼性が高いエネルギー貯蔵の選択肢を、幅広く提供することが可能になりました。さらに重要なことは、出力変動の大きい再生可能エネルギーの拡大による電力系統の不安定化の問題に対して、リユースされた電池モジュールを活用できる可能性があることです。

ウォーリック大学 WMGのDavid Greenwood教授は次のようにコメントしています。

「EV用電池は環境面で大きなメリットをもたらしますが、一方で多くの資源を消費します。EVの使用済み電池をリユースすることで、電池をリサイクルしてしまう前に、環境的および経済的価値を引き出すことができるのです。このプロジェクトでパートナーと協力することで、使用済み電池のリユースが容易になったことを嬉しく思います。」

AMETEKはWMGと協力して、今回開発されたSoH推定による使用済み電池のグレーティングのアルゴリズムを製造現場でも使用できる堅牢な装置に実装し、日産だけでなく他の企業も使用済み電池のグレーディングができるようにしました。

AMETEK Advanced Measurement Technology事業部 事業部長のAndrew Williamsは、次のようにコメントしています。

「このSoH推定による使用済み電池をグレーディングするアルゴリズムは、AMETEKの誇るインピーダンスアナライザーの技術を活用して開発されました。 現在、フラッグシップモデルであるSI-9300Rを含む当社のSolartron Analytical バッテリーアナライザ製品ファミリに、このアルゴリズムは実装される予定です。これにより、リユース電池ビジネスへの参入障壁が軽減されることを期待しています。」

現在、電池リユース向けのパイロットラインでは、電池モジュールをグレーディングする新しい工程が試行されています。日産は、電池パックと電池モジュールのグレーディングの2つのプロセスにより、欧州で組み立てられたEV用電池パックの大部分をリユースできることを期待しています。

SI-9300Rは、使用済み電池のグレーディングのコストを削減するだけでなく、電池の化成工程(フォーメーション)を改善する技術の開発、バッテリー寿命の調査、顧客向け/フリートテスト時の電池の管理・監視技術の開発などに使用できる様々な電池特性の分析機能を標準搭載しております。

  SI-9300Rの各バッテリーアナライザモジュールには、5つの独立した測定チャネルが搭載されており、1台の19インチラックに最大8個のモジュール(最大40測定チャンネル)を搭載できます。また、SI-9300Rは、エネルギー回生技術を使用し、機器の冷却に必要な電力消費と設置スペースを大幅に削減することに成功しました。この結果、従来の非回生型の充放電装置に比べ、単位面積あたりのテストチャネル密度が最大4倍向上し、電力消費を最大90%削減することが可能になりました。

各測定チャネルには、完全に独立した周波数応答アナライザー(FRA)が装備されており、現在市販されているチャンネル切替型の装置に比べ、インピーダンス測定の時間が大幅に短縮されます。さらに、インピーダンス測定データをリアルタイム解析機能と組み合わせることで、各々の電池セルのインピーダンス測定条件を最適化し、全体のテスト時間を短縮することも可能になります。
     

SI-9300Rは、インピーダンス測定に加えて、CC-CV、定電力、定抵抗などの充放電、サイクリックボルタンメトリーのステップなど、電池の解析に有用な測定テクニックをサポートしています。ミッションクリティカルなUPSデバイスなどのエネルギー貯蔵向けの電池に対するハイブリッドパルス電力特性(HPPC)にも対応しています。

AMETEKはSoH推定アルゴリズムの開発を継続しており、2020年にはウォーリック大学 WMGにおいて工学博士プログラムを開始する予定です。自動車メーカーが使用するパウチ型、角形、円筒形などすべての電池のアルゴリズム開発を計画しています。さらに、初期の研究において、日産リーフ用電池に開発したアルゴリズムと同様の手法が、48Vの電池モジュールに適用できることが示されており、この研究成果を、電池パック内の電池モジュールの状態監視に応用する事業を、自動車メーカー向けに検討しています。各地のサービスセンターで使用する診断ツール開発などの事業展開などが想定しています。

今後数年間に渡り、自動車メーカーや大手自動車部品サプライヤーの電池リユースのコスト削減に貢献できるよう、更なるSoH推定アルゴリズムやその他の電池診断技術をAMETEKのバッテリーアナライザへの導入する検討をしています。


【用語について】

<電池セル>:単電池。電気自動車など用途では、単電池を組み合わせて、より出力の高い電池を構成する。

<電池モジュール>:いくつかの電池セルを接続したもの。電池セルに比べて高出力となる。

<電池パック>:いくつかの電池モジュールを接続したもの。電池モジュールに比べて高出力になる。

<SoH>:初期の充電量と経時劣化後の充電量の比率。SoHの値が大きいほど、残存価値が高い。

<グレーディング>:使用済みの電池のSoHを推定してグレード分けすること。

<インピーダンス>:交流電圧を交流電流で除したもの。交流抵抗。

<充放電装置>:電池を充電および放電する装置。

<リサイクル>:電池を原材料のレベルで再利用すること。

<リユース>:電池を、電池のままの状態で、他の目的や用途で再使用すること。